濱中 史朗


史朗さんのこと

~史朗さんが萩の作家で良かった~
史朗さんとお話をするたび、作品を観るたび、良くそんな事を思います。

しかしそんな私も実は初めて出会った17年前には、史朗さんの魅力を感じ取る事ができなかったところからスタートするのです。
その日はたまたま入った萩市内のカフェギャラリーが、史朗さんの個展を開いていました。
古い長屋の会場に、それまで萩では見た事が無い白磁の器が並んでいたのですが、私は幼少から萩焼畑で育ち、また当時はいわゆる萩焼らしいざっくりぼってりとした作風が流行っていた事もあり、史朗さんの作るシンプルな白磁に魅力を感じる事ができずに会場を後にしたのでした。

それから12年経った頃、独立してJIBITAを立ち上げたのですが、その頃には史朗さんは既に知る人ぞ知る人気作家となっており、市内でも人気ショップの多くが史朗さんを扱っていたのです。
一方、天邪鬼な性格の私は人と同じなのが嫌で、多くのショップが扱っているという事だけで敬遠していました。
ところがとある食事会で突如史朗さんの磁器製のショットグラスを使用する機会を得、初めてまじまじと観てみたのですがこれがなんと美しい事か。

その美しさに魅入られた瞬間、これまでの事を悔い、それからは失われた12年を取り戻すかの如く足しげく工房へ通いました。
史朗さんの工房には、色んなものがあります。
ろくろ場には大きな李朝白磁の壺や動物の頭蓋骨。黒を基調とした応接の高い天井にはオシャレなデザインのロードバイクが数台掛けられ、壁には飴色が美しいチェロ。
そして若い頃、まだ給料が少なかった時に無理して買ったと話してくれた高価な李朝家具からヨーロッパのアンティーク椅子、小さい物では国内外のカトラリーまで本当に色々です。
それらを見て当初は「多趣味だなぁ」くらいにしか思えなかったのですが、史朗さんがアンティークの椅子を「資料として買った」とお話してくれた事がしばらく頭から離れず、「なぜ資料なのか?」という事を自分なりに考える日々が続きました。
そして辿り着いた答えは、「美しい造形物はジャンルを超えて美しい」という事。
つまり、陶芸の造形に於けるヒントを陶芸にばかり求めてはいけない、という考え方です(答え合わせはしていませんが)。
それに気付いてからの私の眼は、造形物全てのデザインに興味が及ぶようになり、今思うとこの気付きこそが史朗さんとの出会いで得られた一番大きな宝と言えるのです。

史朗さんとお話するといつも新しい発見があります。
その中には、あまりにも常識と捉えられてきた陶芸史の通説さえも再考の必要性を感じさせるものもあり、そんなお話を聞けた時、史朗さんが物作りに対しいかに深く掘り下げているかをうかがい知ります。
また史朗さんは、「造形の根幹は人の体、更に突き詰めると骨格にある」とも言われ、その様な見方から生み出された作品には、最近増えてきた表層的な部分にのみ影響を受けて具象化された物の様な軽さはありません。

とは言え、他地域で力のある作家増えてきている事実もある中、誰にも侵される事無く史朗さん自身のあり方を貫いて生み出された作品を観る都度、他の追随を許さぬ技量と魅力が感じられて安堵している私に気付きます。
その時こそが一番、史朗さんが萩の作家として存在してくれている事を嬉しく思う瞬間と言えるのです。

文 Gallery JIBITA 代表 熊谷信力

プロフィール

濱中 史朗 -Shiro Hamanaka-

1970 山口県萩市出身
1998-1999 出張料理人 佐々木 志年氏のもと助手
2012 高野山開窯

2001 PUERTA DEL SOL Tokyo shop/東京・恵比寿
2002 TIGHT ROBE/山口・周南 
2002- 望雲/福岡 
2006 TREASURE/Paris 
2006- さる山/東京 
2007- bonton/神戸 
2008 Belles Fleurs/山口 
2008 Design Tide TOKYO CIBONE AOYAMA/東京 
2009 LOUTO/広島 
2010 ミラノサローネ ボッテガベネタ 日本のデザインと伝統/ITALIA 
2010 工芸の五月 みずとこめにインスタレーション/長野 
2011- うわのそら/福岡 
2012 TOMIO KOYAMA GALLERY KYOTO/京都 
2013 清洲国際工芸ビエンナーレ/韓国 
2014- “鐵”展 叢×濱中史朗 ref./広島 
2014 ”現代陶芸現象” 茨城県陶芸芸美術館/茨城 
2015 gallery’s eye -選ぶ力- Kaikai Kiki Gallery/東京 

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